愛 媛 の 散 策

 

松山の観光特攻隊!

 

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3 平成の坊っちゃん列車

 
さて、くどいようだが、坊っちゃん列車は平成一三年一〇月一二日に松山市内に復活した。伊予鉄道の道路併用軌道上を走るのであるから、それは相当の制約があったに違いない。それらをひとつひとつ解決していって、坊っちゃん列車の復活に至ったわけである。

現在、坊っちゃん列車は一乗車当たり三百円(子供二百円)となっている。乗車してしまえば、終点まで乗車することができる。ただ、全額運賃ではなく料金らしく、身体障害者割引等はないらしい。また、坊っちゃん列車一回限りの乗車券と市内電車及び東西・東南ループバスが一日乗り放題の乗車券は五百円(子供三百円)。さらに坊っちゃん列車乗車記念グッズ付きだと、先の五百円の切符が千円(子供も千円であることに注意)になるが、このグッズは道後温泉駅では乗車前に受け取れるが、それ以外の場合は道後温泉駅か松山市駅で下車後にもらえる引換券が渡される。なお、マドンナバスについても一日乗車券があるが、これは後で述べる。

運賃の説明をしたところで、あまりオタッキーな内容は避けて、復活した坊っちゃん列車のハイテクノロジーぶりを紹介していくことにしよう。

@動力の変更

一番の変更点はこれである。現役当時はもちろん蒸気機関車だったが、現在の坊っちゃん列車はディーゼル機関車である。従って、機関車運転席にある蒸気機関車らしい装備は全てがレプリカであり、実際の運転は、運転席左にある市内電車の運転席と同じような(厳密に言えば少々違うのだが)ハンドル等により操作している。

A音と煙への追求

坊っちゃん列車復活に当たっては、本体は新潟鉄工で作られたが、汽笛は伊予鉄道で作られた。汽笛は伊予鉄道OB等から当時の汽笛の音を再現してもらったりして、伊予鉄道が最もこだわった部分である。

また、ディーゼル機関車であるのに、煙が出るということであるが、これは劇場などで使用するスモークマシンを使用しているという。なお、JRのディーゼルカーなどでは、現在の蒸気機関車顔負けに煤煙を撒き散らすものもあるが、この坊っちゃん列車はハイブリッドとまではいかないが、かなり有害物質の排出を抑えているという。

さらに、蒸気機関車の音は、その部分にスピーカーを置いている。運転席には「擬音」というスイッチが備えられている。

B走行時の安全性

通常の走行ならば、障害物はぶつかってくるほうが悪いのであるが、そうは言っても、道路併用軌道の場合、車は最大の邪魔者となるし、自転車や歩行者を撥ねるわけにはいかない。運転には細心の注意が必要である。

その際に、蒸気機関車のあのヘッドスタイルは、運転席から右前方に死角ができるという最大の欠点があるのだ。このため、本来は石炭を燃やすための助手は、もっぱら右前方死角の確認が義務付けられている。一応、運転士の前には右前方を映し出したモニターが二台あるのだが、遠近感という問題から、助手の目視が一番の安全だという。また、死角は右前方だけではない。機関車の後ろには客車という壁があるため、運転席から直接後方が見えない。後方の安全確認と、乗降に関する安全は車掌が担っている。だから、坊っちゃん列車の運転を見ていると、運転士と助手、運転士と車掌の間で安全確認を呼称、あるいは手を振ったりしている様子を見ることができる。

さらに、忠実に復元したからこその死角がもうひとつある。それが運転席前方の窓である。当然現役当時の坊っちゃん列車は専用軌道を走っていたわけだから、それに比べると、運転席前方の窓は余りにも小さい。だから、運転士と助手は前方の窓からではなく、横の窓から顔を出して前方確認をしていることが多い。寒風吹き荒れる中の運転は大変だと思う。

C坊っちゃん列車の方向転換

坊っちゃん列車を復活させるに当たっての最大の問題点がこれだったという。

伊予鉄道は現在、全ての車両が電車であり、方向転換の必要性がない。が、蒸気機関車の形をしている以上、はっきりと前後がある。実際の蒸気機関車はターンテーブルがないからという理由等で、そのままバックして戻ってくるケースもあるが、多分道路併用軌道を走る都合上、安全対策から見て、それは許されなかったのであろう。

では、どのようにして方向転換するか?それが、実際に行われている機関車の下にジャッキをつけて、機関車ごと浮き上がらせて、回転させるということである。が、当初これには国土交通省から「待った」がかかった。

法令上、車体の全ての車輪が浮いた状態のことを、専門用語で「脱線」というのだそうだ。だから、意図的に「脱線」させるというのは、おいそれと認めるわけにはいかなかったのだろう。多分、国土交通省等と相当のやり取りがあったものと思われる。

結果はご覧のとおりであるが、確かに「脱線」させた後、再び線路に完全に復帰するのには慎重さが必要であるようだ。方向転換をした後の坊っちゃん列車の点検作業は、そういう困難を乗り越えた証である。

Dヘッドライト

坊っちゃん列車の運転は、夏と冬とでかなりダイヤが違う。というより、最終時刻が二時間程度違うことに気づくと思う。

これはなぜか?実は坊っちゃん列車のヘッドライトに原因があるという。ヘッドライトが営業用としての明るさを維持できないため、夜間運転が認められていないということらしい。

Eポイント操作等

かつて実際に走っていたものを「忠実に復元した」坊っちゃん列車の中で、一番当時の姿と違っているのが、客車の屋根の部分である。

なんだか、にぎやかな構造物がつけられていて、時折パンタグラフ(ビューゲル)のようなものが上がったりしている。だから、人によっては「坊っちゃん列車は電気機関車なのでか?」と尋ねる人がいる。個人的には、そのほうが面白いとも思うのだが、残念ながらあのビューゲルには集電装置はない。

では、何のためにあるのかというと、簡単に言うと、ポイント操作と信号操作のためである。

伊予鉄道の道路併用軌道部分、つまり城北線のJR松山駅前〜古町〜鉄砲町〜上一万間を除いた部分のポイント操作は、架線に取り付けられているトロリーコンタクター(略して「トロコン」)によって行う。従って、パンタグラフを持たない坊っちゃん列車といえども、トロコンを操作する必要があるので、そのためにビューゲルを搭載しているのであって、決して集電をしているわけではない。西堀端〜南堀端間はビューゲルを上げたままにしているが、坊っちゃん列車の車掌がビューゲルを上げ下げしている姿を見ることができる。

トロコン操作については、少々マニアックな話になるが、西堀端、南堀端、勝山町、上一万の各交差点前後の架線をよく見ると判る。そこには架線にコイル巻のような線があって、二箇所ほど地上に向かってピンのようなものが伸びている。このピンのようなものがトロコンで、市内電車のパンタグラフが当たると、トロコンがくるくると回るのが判る。で、二箇所のトロコンの通過時間によって、前方のポイントの向きを決めるのである。私も詳しくは知らないが、例えば、市役所電停から南堀端電停に差し掛かる直前の二箇所あるトロコンの通過時間が五秒以内であれば、左折、すなわち松山市駅方面へポイントが動き、五秒を越えると直進、すなわちJR松山駅前方面へと進むことができるというものである。

だから、その前後で軌道敷地内に車が走ってきた場合には(元々軌道敷地内は進入禁止)、市内電車からけたたましい程の警笛を鳴らされることになるが、それはそういう理由だからである。では、ポイントを誤作動させてしまった場合はどうするのか?そのときは、各交差点近くの電停にあるコントロールボックス(通常は鍵が掛けられており、運転士が鍵を持っている)を開けて信号操作をする。万一、それでも正常に作動しない場合は、交差点の(県警管理)信号操作盤の近くにある(伊予鉄道管理)ポイント操作盤によって操作をする。当然ながら、こんなことをしていたら定時運転は不可能となる。操作盤なども交差点をよく確認していれば判るが、いらんことはやめておこう。

さて、以上くどくどと述べたが、今までの記述を見て「あれ?」と思う人がいると思う。「勝山町交差点にはポイントはないぞ!」それに気づいたあなたは偉い。私も最初は判らなかった。

実は、表題にもあるように、これらの場所にあるトロコンはポイント操作の他に信号操作ということもしている。要するに、市内電車(坊っちゃん列車を含む)が交差点を通り過ぎるまで、信号を青にしないというものである。勝山町交差点は市内電車が進入できるタイミングは一瞬しかない。右折信号が赤になった後にも(信号無視して)交差点に入ってくる車のために、交差点進入が遅れた場合、反対側の信号が赤になるのが遅くなるので念のため。

少々どころか、結構マニアックになってしまったので、ついでにもうひとつ。先ほど述べたJR松山駅前〜古町〜鉄砲町〜上一万間であるが、ではこの区間はどうしているかというと、見れば一目瞭然だが、古町以外のポイントは全てスプリングポイントになっていて、進入方向は常に左側通行になるようになっている。ただし、この単線区間は列車集中指令装置(CTC)と無線連絡によって行われており、伊予鉄道はかなりのハイテク制御を備えているのである。

F客車の下回り

客車の場合は、先に述べたように、屋根の部分がかつての坊っちゃん列車時代とは比べ物にならないほどごちゃごちゃしているが、実は客車の下回りもかなり異なっている。それはすなわち、安全性との戦いでもある。

非常ブレーキ装置などを備えた、これまたハイテク客車なのである。もっとも、内装も忠実に復元されたから、冷暖房装置を備えていない。

G連結装置と自走装置

市内電車の場合、単行運転なので、連結という必要はほとんどないが、坊っちゃん列車の場合は、機関車の向きを変えることと同時に、機関車と客車の連結、解放作業が必要となる。

連結装置は、いわゆる巻上げ式であって、自動連結器等が普及している現在の日本ではこういう連結作業をみることはほとんどできない。

実は、運行当初は、この作業に時間が結構時間をとって、後続電車の運行を妨げたりしていたが、現在は乗務員も手馴れたものである。

なお、同じく運行当初は、客車は乗務員が手押ししていた。休日で松山市駅のダイヤが乱れそうなときは、伊予鉄道の乗務員が応援に来ていたり、到着した市内電車の運転士が手伝ったりしていたが、現在の客車はスイッチを押すことによって、自走ができるようになっている。実際には自走速度が遅いので、乗務員が手押しする情景はなくなってはいないが、乗務員の苦労は大分軽減されたようだ。

なお、今はまず見ることはないだろうが、坊っちゃん列車の客車は市内電車に牽引されることもできるようになっている。そのため、万一のときのために、客車の座席下にはそのための工具が積まれている。

 

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